社畜な鯱狗の妄想雑記

吾唯足知、即身仏。南無、阿弥陀佛。

衆生でかると救世おかると観音

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【文明】
もう、何にも思わなくなったなら。
もう、何とも思わなくなったなら。
死ぬるまでもなく、居らぬも同然。
私は、私の不在を証明したいのだ。
私は、アリバイを証明したいのだ。
二度と、事情を聴取されぬために。

猫も杓子も「我思う」ほどに、
「我思う」のは、スバラシイことであるか。
そりゃあ兎も、羽ばたこうもの。
めひすとへれすのトラバサミの優しさで、
いつまで薬喰ひを続ければ、
私の病は良くなるというのか。
果たして、そもそも、私は病であるのか。
それが本性であるのなら、
心を切って、頭を切って、
およそ私と思われる部品を、全て切って、
何にも無くなれば、私は頗る健康なのだ。
恋ひの病など、まして冗談!
これは般若湯。これは般若湯だって。

私には、誰一人だって救えない。
という、確信だけが「我思う」。

【破戒】
まりや様、まりや様の観音様、どうか。
救ひたまへ。
救われるべき人を、救ひたまへ。
救われるべき人の、救われぬ世に、
些かも未練など、ございませぬ。
あの人を、救ひたまへ。
まりや様、まりや様の観音様、あゝ。
私が、あなたの息子であれば、良かったのに。
私は、救われるべき人ではないから、
救われぬことを、知っている。
ならばせめて、誰か一人でも、
せいぜい、私をハリツケに、救うことさえ、
できたなら。
些かも未練など、ございませぬ。

さて、私の番が、やって参りました。
私の汚い土足が、
まりや様のお顔を、踏み付けます。
そうやって、生き延びるのであります。
霜柱のように。
冷たい足の裏は、死人のようです。
私など。
死ぬるまでもなく、居らぬも同然。
私はもう、何にも思いたくない。
何にも思いたくない。

どうか、救ひたまへ。
私の思う人を、救ひたまへ。
まりや様、まりや様の観音様。
どうか。