社畜な鯱狗の妄想雑記

吾唯足知、即身仏。南無、阿弥陀佛。

summer fall (the catcher in the LIE)

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鉄条網の向こうには、
世界が広がっている。
トグロを巻く、有刺鉄線の、
向こうには、きっと。
だから僕らは、こうして、
秘密基地を築き上げて、
来たるべき、戦いに備えた。
真っ赤な複葉機に、
マヌケな導火線を生やした、
爆弾を、ぶら下げて。

決行の日。

監視塔から見下ろす入道雲が、
晩飯を食いに、
引っ込んだ、隙を突いて。

複葉機が、突っ込んで。
鉄条網が、燃え上がる。
夕陽というモノが、
其処に、初めて生まれた。
断末魔を上げて、
針金の毒蛇が、のたうつ。
--成功だ!
僕らは、駆け出す。
引力を、振り切って。
風穴の空いた鉄条網の、
向こう側へと。

私は、其処で、待ち受ける。
微笑みを、衛星軌道に浮かべて。

向こう側。
其処には。

端正に、均等に。
テクスチャだけが、在る。

そして私は、
声を掛けてやらねば、なるまい。
なるたけ、紳士的に。
子供が一人で、ウロついて、
良いような、場所ではないのだから。

そうとも。
君は、確かに。
世界へと、辿り着いたのさ。
おめでとう!

この、
コンピュータ・グラフィックスの、
未入力のままで、ブランクの領域。

ソレが、世界さ。
おめでとう!

それじゃあ、私は君を、
親御さんのトコロまで、
送り届ける義務がある。
君の親御さんには、随分と、
御協力を頂いているからね。

僕らは。
僕らは。
僕らは。
僕らは。
僕は。

この街には、
鉄塔が、立っている。
満月を、用地に買収して、
送電線を、張り巡らせている。
両親が、反対派の近隣住民の、
切り崩し工作に暗躍したことを、
知ったのは、随分と後になって。

秘密基地の跡地は、駐車場になった。

僕の家は、駐車場だった。
学校は、駐車場だった。
商店街は、駐車場だった。
満月は、駐車場だった。
この街は、駐車場だった。

世界は、駐車場だった。

成長した私は、
だから、駐車場の管理人になった。

いつの日か。

迷惑な子供が、侵入してきた時に。
待ち受ける義務が、あるのだから。

そう。
微笑みを、衛星軌道に浮かべて。