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社畜な鯱狗の妄想雑記

ファシスト見習い。すべては音楽。詩集『円周』。

先頭車両の気狂い

✳︎

嘘のような。
本当の話でも、しようか。
実に、今朝ほどの、ことさ。

肘が当たったか、足を踏んだかの、
騒ぎが、一つ前の、電車であって。
私が、飛び乗った先頭車両は、
実際のところ、飛び乗るまでもなく、
発車する気配など、無かった。

そんな、先頭車両に、
乗っていた。先客の一人が。
件の、気狂いであった。

大丈夫?大丈夫?

気狂いは、まるで。
田舎の特急で、車掌が検札でも、
するかのように。
頭を、がっくんがっくんと、
させながら。先頭車両を練り歩き、
乗客に訊ねて、廻っている。
トランシーバーのように、
ペットボトルを、耳元に当てた、
気狂いは。幸いにも、暴力的では、
なかった。

大丈夫?大丈夫?

訊ねられた乗客は、無視を決め込むか、
稀に、穢れを見てしまった。
そんなような、顰め面をする者も、
いたが。しかし、誰一人、
気狂いの問いに、答える者など。
もちろん、いない。

大丈夫?大丈夫?

そして、私は気付く。
坊主に頭を剃った、気狂いは。
決して、やたらめったらと。
片っ端から乗客に、訊ねている、
わけではない。何か、気狂いには、
気狂いなりの、道理があって。
祝福すべき人、もとい、
訊ねるべき人を、選別して。
練り歩いて、いる。

大丈夫?大丈夫?

私の、手前の、
女の人が、訊ねられた。
無、反応。

大丈夫?大丈夫?

私を、飛ばして。
次の、次の、次の辺りの、
どなたかに、訊ねている。

大丈夫?大丈夫?

そうか、私は。
気狂いの、道理に依れば。

大丈夫?大丈夫?

訊ねるべき人では、なかった、
らしい。

大丈夫?大丈夫?

其れは、何か、恐るべき、
先頭車両の、啓示から。
私という人間は、
漏れて、しまったという。
つまりは。
そういうことでは、
なかったのか。

大丈夫?大丈夫?

そのような、疑念に。
囚われる私が、
正気と、呼べるのか、
果たして。などと。

大丈夫?大丈夫?

肘が当たったか、足を踏んだかの、
騒ぎが、一つ前の、電車であって。
私が、飛び乗った先頭車両は、
実際のところ、飛び乗るまでもなく、
発車する気配など、無かった。

大丈夫?大丈夫?

先頭車両の気狂いが、
訊ねて、廻る。
練り歩いて、いる。

大丈夫?大丈夫?

いったい、どれほどの、
正気の人が。
先頭車両には、乗っていると、
いうのだ。

大丈夫?大丈夫?

私が、思わず叫ぶ。
ことは無い。決して。

大丈夫?大丈夫?

嘘のような。
本当の話の、此れが顛末。
実に、今朝ほどの、ことさ。

大丈夫?大丈夫?

私の脳裡に、リフレインする。

大丈夫?大丈夫?

ねぇ。其れは、実際のところ。

大丈夫?大丈夫?

他ならぬ、貴方の、脳裡にも。

大丈夫?大丈夫?

リフレイン、しているんだよ。

大丈夫?大丈夫?

大丈夫。大丈夫。