社畜な鯱狗の妄想雑記

吾唯足知、即身仏。南無、阿弥陀佛。

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さようなら!
さようなら!
さようなら!



私は光。
貴女に絵本を与えた、盲の執事。
私は影。
青年の白杖を預かる、聾の侍女。

私は波紋。
常闇に手慰む、古ぼけたピアノ。
私は粒子。
少女の静謐な、水彩のスケッチ。

私は希求。
無銘の丘に建つ、素朴な御屋敷。
私は失望。
悠久の夏を想う、キネマの庭園。

私は愛。
植栽へと、惜しみなく注ぐ太陽。
私は恋。
青空の下、ぐったりした向日葵。

私は精神。
丘から見下ろした、鉄橋の汽車。
私は実体。
軋んでは慄かせる、陽炎の貨車。

私は過日。
橋脚の湖底に遊泳する、黒い魚。
私は行方。
洋館の遥かへ翔び発つ、白い鳥。



私は生。ではないのです。

私は死。でもないのです。



私は貴女。
か弱くとも気高い、深窓の詩人。



さようなら!
さようなら!
さようなら!



侍女は、執事に。
執事は、貴女に。

御暇を賜りたく、このように。
参りましたので、ございます。



さようなら!
さようなら!
さようなら!



貴女は、か弱い。
されど、気高い。

どうか、泣かないで。
どうぞ、笑っていて。



さようなら!
さようなら!
さようなら!



さようなら!
さようなら!
さようなら!