炎昼の、深海
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彩りどりの。
薔薇の園庭を、抜けて。
受付の金魚に、切符を渡す。
錦鯉の学芸員が、愛想良く。
私を、底へと導く。
動物園というのは、嫌いだ。
どうして、あんなにも。
明るく、振舞えるのだろう。
ふと、私は。
繭の中で、糸を吐き続ける。
白蛇の令嬢を、想う。
その、不恰好な羽根が。
懸命に、羽ばたく姿を。
浮かべる。
深海から、仰ぎ見る波間で。
きっと其れは、美しいから。
水槽の、内側から。
宛名の無い手紙を。
瓶に詰めて。
浮かべる。
程無く。
水圧に、耐え兼ねて。
瓶は粉々に、砕け散る。
宛名の無い手紙が。
人工海水の底に、降り募る。
程無く。
水圧に、耐え兼ねて。
水槽は粉々に、砕け散る。
程無く。
気圧に、耐え兼ねて。
私は粉々に、砕け散る。
彩りどりの。
動物園の、ペンギンの餌。