社畜な鯱狗の妄想雑記

吾唯足知、即身仏。南無、阿弥陀佛。

即興2017.7.4

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あの飛翔体は、
届くという人がいる。
届かないという人がいる。
そんなことは、どうだって良くて。
今日を選んで、飛び込む人がいる。
鮨詰めの電車のどこかで、
二時間以上も、立ち尽くした、
私がいる。
舌打ちが聞こえる。
舌打ちが聞こえる。
車窓の向こうには、迫り来る暴風雨。
あの飛翔体は、
祈れば止まるという人がいる。
殴れば止まるという人がいる。
それならば。
あの過日の、波は。
祈れば止まったのだろうか。
殴れば止まったのだろうか。
舌打ちが聞こえる。
舌打ちが聞こえる。
政治的な科学、的な宗教、的な政治。

先頭車両が。
バラバラに、撥ね飛ばしたのは。
たぶん、私。

その山荘の処女膜を、
放射線のように不可視の、
鉄球が貫くように。
車窓の向こうには、迫り来る飛翔体。
その時。
私の脳裏には、
護りたい誰の笑顔も、
浮かばないから。
先頭車両の気狂いが、リフレイン。
舌打ちが聞こえる。
舌打ちが聞こえる。
ズブ濡れの帰宅。
異郷の記念日。
飛翔体の日。

塩湖にて

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白く朽ち果てる、その湖畔で。
真二つに折れた、無銘の剣に。

暫し、ただ、祈りを捧ぐ。

炎昼に、帽子を目深に正して。
リュートの弦を調律したなら。

どうか、惑わぬようにと。

インディゴの獣の、霊験も灼かな、
一振りのカイトで、宙を斬り伏す。

褪せた雲海を泳ぐ、無銘の鳥葬よ。

叫びを。

その空蝉を、愛づ。

✳︎

祭囃子が、遠く聞ゆ。

白無垢の、煌くは刹那。

翔び去るは、忘却の彼方。

然れども、証は不滅の故に。

滑かな、飴細工は金字塔なり。

やがて明ければ、騒擾の時雨も。

空蝉は凛として、静謐に睥睨せん。

凡そ白痴の餓鬼ども、僕には構うな。

この地の底で僕は、その皇女に仕えて。

ただ護り、果てたいと願って止まぬから。

入道雲が湧き上がり、洗い流してしまうサ。

其れは間も無く、膨れ上がるのも見えぬ世間。

世界文壇構想の記

✳︎

もはや、此の世に。

模倣ではない、本当など、
遺されているのだろうか。

この、煉獄のやうな、恋さえも。

過去、或いは、未来のいずれか。
全ては、悉く、語り尽くされた。

あとは、銘を、消費するばかり。
銘を、ぐるぐる、ぐるぐる、と。

--世界は、文壇だ。

学ぶべきは、文学ではない。
文壇を、学ばねばなるまい。

世界を、分断する。
そんな野望は、潰えて久しく。

馬鹿馬鹿しくも、月とは、
綺麗でなければ、ならぬ。

私の、立派な鸚鵡の、
嘴を、御覧なさいな。

ねぇ?

眼球の表面を、
とろりとした銀糸が、流れる。

p.o.n.

✳︎

機械的な機械。
人間的な人間。
ユートピアの待合室。
ごった返している。
処方箋を手にする。
そのために、
生きている。
処方箋さえあれば、
薬なんて要らない。
もう永いこと、
こうしている。
清潔な白衣。
消毒された恩寵。
医師の不在。
死ぬまでは、
生きている。
処方箋さえあれば、
きっと快復する。
みんな良くなる。
もう永いこと、
こうしている。
床擦れの臭いも、
気付かぬままに。
ユートピアの待合室。
人間的な糖衣錠
死ぬまでは、
生きている。
死ぬまでは、
生きている。

empress of emptiness

✳︎

流砂の底に、沈みゆく免罪符を。
僕らは、我先にと、奪い合う。
腕を引き千切り、脚を引っこ抜き、
頭蓋を叩き割り、臓腑を抉り合う。
血と膿が、地と海を成す。偽書
原罪は、
その聖餅を崇めて、食さぬこと。
血と膿、濃密に立ち込める汗さえも、
本当は。
中空にワイヤーで吊られた、
ガラス張りの無菌室の、
一つの実験に、過ぎないなんて。
匣の中の狂騒。錯乱した獣の咆哮を上げて、
貴女の喉笛を噛み千切る、僕を。
匣の外の静謐。デスクでコーヒーを片手に、
パンチカードを透かした、僕が。
見上げる。中空の脳漿。レギオン。薬局。
この、真っ白な、防音室の中空へと、
八本のワイヤーで吊られた無菌室に。
ボタンを一押し。また一枚の、
免罪符を、投下する。
群れなす亡者のような僕らを、
僕らは。冷ややかに見上げる。
中空の受肉。中空の聖別。
僕らの。血と汗と涙は、デジタル。
量産して、安価に提供する。
そして、僕は。
清潔な白衣を纏った、貴女の、
頬に。そっと。
触れた。指先に。
ぷつりと。赤黒い。珠が。
生まれ。防音室の、
磨き上げられた、タイルの上に。
一滴。溢れ落ちる。
頭上から。降り注ぐ、無限の聖餅は、
まるで、流砂のようだと。
貴女の顔をした、貴女の声をした、
監視カメラが。
嗤う。
中空の神。原罪を、札束で買う。
吸血鬼に。御馳走を申し出る、
殺鼠剤と、解毒剤の、カクテル。
高度に電子化された、免罪符。防音室。

中空。

血と膿に塗れた、無菌室で。
嗤う。

✳︎

そして、燃え落ちるのは、
月か?俺の瞼か?
意図せぬ、愛おしさを噛み殺し、
俺の毛皮が、逆立つのを感じる。
愛撫とは。グラスの中で、
稀釈された殴打。
だから、優雅に飲み干して、
鉤爪で握り潰す。
銀食器の、鋭利な恍惚。
その、千年の楼閣から睥睨すれば、
麦畑には、鬼火が走るばかり。
地の塩が満ち、痩せ細る神話。
そうだ。全ては、意図に依る。
俺の。さもなくば、神の。
足の踏み場も無い、グラスの破片。
銀食器には、嘲笑うサロメの首級。
やがて、時計塔へと。月が、
墜ち、刺さるだろう。
経血と呪詛を撒き散らして、
泣き、喚くのだろう。
そして俺は、稀釈を止める。
顎門から、水銀を垂れ流しながら、
俺の、俺の、俺の、牙が!
血が。蒼い、血が。
硫黄の焔に抱かれ。
そして、