社畜な鯱狗の妄想雑記

吾唯足知、即身仏。南無、阿弥陀佛。

【青春タンクデサント】もう一つの「元ネタ」の話(言い訳)

✳︎

というワケで、ダラダラと(白目)。



以前に書いた、下の記事にて。

《「メメント森」って書くと、芸人さんみたいな件》

“祝福”の「元ネタ」は、星新一『処刑』だと、
「種明かし」など、させて頂いたワケですが。

それじゃあ「起承転結の転」に当たる、
a6のラストから現れた“測量オジサン”。
そして最終話a10の、あの「超展開」は、
いったい何だったの?(汗)となりますと。



白石晃士監督の、一連の映画を貫く「世界観」が、
「元ネタ」となっているワケで、ございます!(爆)

黒沢清監督と白石晃士監督の「共鳴」》

《白石晃士監督が描く「現代のドン・キホーテ」達》



もし、白石監督の作品を知る方が読んだら、
“測量オジサン”の「文脈」は一目瞭然かとw

ノロイ』の「最強の霊能力者・堀光男」。
そして、
『オカルト』の「地獄だぞおじさん」。

すなわち、
「セカイの真理を知り過ぎたアウトサイダー」という、
白石監督が得意とする「文脈」に、連ねてみようと。

そうして生み出された「トリックスター」こそが、
『青春タンクデサント』の“測量オジサン”でしてw



となれば、あのラストの「超展開」も、
つまり同じ「理屈」であるワケです(苦笑)。



「セカイの文脈」を「超越する唯一の方法」は。

「人倫・理性の踏破」であり。

「神憑りのアウトサイダー」の領域に、
足を一歩、踏み入れるしかないのだ、と。

『コワすぎ!最終章』にて、
江野クンが“白石クン”に課した「試練」と、
ようするに、同じ「文脈」なワケですwww



“祝福”という「理不尽で文学的な死」を、
「回避したい」と、願うのならば。

それ相応の「不条理で身体的な生」により、
「文脈を無化する」しか「方策」は無い。

幸いにも“測量オジサン”が、「リロン」の領域まで、
“祝福”の「絶対性」を「引き摺り下ろして」くれた。

他ならぬ「ヒロイン」の睦美紅子も、
グレゴール・ザムザは、毒虫なら暴れろよ」と、
極めて重大な「ヒント」をくれていた。

だから「あと一歩」で、ソレは「成せる」。



ーーで、考えてみたワケですが。



犬飼恭兵が、睦美紅子に「恋を告白する」。

コレじゃ「弱過ぎる」。

まったく「文学的な領域」を踏み越えないし、
しかも、察しの良い睦美紅子なら、とっくに、
犬飼恭兵の「好意」には、「気付いている」。
つまり「秘密の告白」に値しないワケでして。

ソレなら、
「好きだし、付き合いたいし、セックスしたい」まで、
踏み込ませてみたら?

ん〜……少しは「身体性」も伴ってきました、が。
肝心の睦美紅子が、先に「セックス三昧」発言を、
しちゃってるんですよね(苦笑)。
まぁ、健康な男子高校生(笑)なら、これでもなお、
想定の範囲内」ですし、やっぱりまだ「弱い」。

もっと……もっと。

「身体性」があって。
「秘密の告白」であって。
「恥ずかしい」感じで。
しかも、
「馬鹿馬鹿しい」方が良い。
サボタージュ”に匹敵する「弱者の武器」は、
みっともないほどの「笑い」であるのだから。



そうして、考えに考え抜いた、結果が。



「……そうだ、オナニーだ!」と(爆)。



コレは物凄く「恥ずかしい」です!(笑)
しかも「馬鹿馬鹿しい」し、オマケに、
ありふれた童貞の男子高校生にとって、
セックスよりも「身体性」があるwww
コレならたぶん、睦美紅子の「想定外」で。
少なくとも「この物語の文学性」ぐらいは、
余裕で「木っ端微塵」に、吹っ飛ばせる!
(より「高尚な文学」なら、自慰など屁でもないケド)

ーーようするに。

もしも、仮に「睦美紅子が生き延びた場合」に、
「犬飼恭兵が最も覚えていて欲しくない秘密」を、
考えに考え抜いた、鯱狗なりの「結論」が。

「睦美紅子をオカズにしたオナニー」だと。

ソレなら「“祝福”の銃弾をも曲げられる」と。

スッゲー大真面目に、考えた結果なのですwww



作者である鯱狗は「物語の外側」にいるから、
こうして「系統立て(?)」で、考えられますが。
「物語の内側」で、まったくの「直感」により、
その「正解」に辿り着いた犬飼恭兵は……うん、
ハッキリ言ったら「アブナイ人」ですよね(殴)。



というワケで。



血だ脳漿だ尿だ嘔吐だ涙だ鼻水だと、
やたら「粘液的」な。
ようは「ばっちい」表現が(苦笑)。
あちこち、頻出したのも。
最終的な「身体性による文学性の超克」への、
一種の「伏線」のつもりであったり。一応はw
犬飼恭兵の「書を捨てよ、町へ出よう」の引用含め。
カフカの『変身』はB級映画じゃないから駄作」の、
睦美紅子の「暴論」からは、ラストの唐突な、
映画『スピード』談義に繋がっていたりして?
(カネの掛け方は、B級とは言い難いですケド)



……えーっと、ゴメンなさい!(土下座)



解説(?)のつもりが、ますます「意味不明」に、
陥っているコトは、自覚してはいるんです!(殴)

自覚してはいるんですが、
自分の「思考回路」を、それなりに、
「大真面目に説明」しようとしたら、
何かもう、こんな感じにしかならなくてorz

カネを取って書いてる小説じゃないんで、
どうか許して下さい!(サイテーの言い訳)



えー、グダグダで、収拾が付かなくなったトコロで。

あの、ひっどいオチへの言い訳は、オシマイ!(逃)



御目汚し、重ねて失礼致しましたm(_ _)m

【青春タンクデサント】完結に当たりまして謝辞

yoshitakaoka.hatenablog.com

ae7chu.hatenablog.com

✳︎

《想像は終わらない》高岡ヨシ様
たまゆらのなかのとわ》ae様
 
リアルタイムでの御拝読のほど賜りまして、
誠に、ありがとうございました。
 
“物語”を、書き始めるのは、易しい。
“物語”を、書き上げるのは、難しい。
 
曲がりなりにも、どうにか、
書き上げることができましたのは、
ひとえに、御二方のお陰でございます。
 
鯱狗などでは、及びも付かぬ、
思索に満ちた“語り部”の御二方に、
御覧を頂けていることが、励みでした。
 
改めまして、厚く、御礼を申し上げます。
 
 
 
 
 
……あの、ひっどいオチの付け方については、
これから「言い訳」を、用意致します!(殴)
 
“祝福”という「システム」を「回避する方策」が、
かなり大真面目に、あの、ひっどい「告白」しか、
思い浮かばなかったワケでして、ええ……(白目)。
 
以上、失礼致しましたm(_ _)m

【青春タンクデサント】a10「さらば、愛しきタンクデサント!」

✳︎

    そして“クリスマスの町”が、“年末の町”へと。
    速やかに、正確に、塗り替えられる。
    --“暦”など、所詮は「定義」でしかない。
    この“セカイ”に「意味」なんて、無い。
    僕らの“人生”に「意味」なんて、無い。
    他者から与えられる「定義」。すなわち。
    勝手な「希望」と、勝手な「失望」と。
    それ以外に、もし、ナニかが。あるとするなら。

    ソレは、自ら描く「物語」だけ。

    勝手な「希望と失望」を、押し付け合って。
    グチャグチャの滅茶苦茶になった、その果てに。
    いつの日か、ちっぽけな「物語」さえ。
    そこに、見出せるのなら。

    ソレこそが「ヒロインの特権」なのだと。

    この、たった半年間に。
    その人が、少しずつ、語ってくれた「思想」を。
    僕はこうして、不完全に咀嚼しながら。
    中央公園のベンチに、一人、待ち続ける。

    十二月二十八日。
    時刻は。
    十七時半を、既に、回っていた。

    人影は疎ら。黄昏時。
    子供を遊ばせる家族連れの姿などは、無い。
    数人の週末ランナーが、ぐるぐる、ぐるぐると。
    僕は浅く腰掛けて、膝の間で両手を組んでいる。

    それでも、じっと待つ、僕の。
    根拠の無い「確信」が、やがて。

    --その姿を、見せる。

「ハイ、差し入れ」

    何事も、無いように。
    ごく、当たり前のように。
    睦美紅子は、十七時四十五分の公園に、現れて。
    僕の隣に、座った。
「まさかとは、思ったけどさ」
    温かい缶コーヒーを、手渡される。
「やっぱりキミは、いるんだね」
    どこか、遠くの方を仰ぎ見て。
「……来るつもり、無かったんだけどなぁ」
    呆れたように、小さく笑った。
    それから、白い溜息を、一つ吐いて。
「今なら、猫が『どうして』いなくなるのか。何と無く、理解る気がするよ」
    閑散とした、宵闇の公園の片隅で。
「だって『どんな顔』したらイイか、判らないじゃん」
    そのように語る、ストレートの長い黒髪の少女の。
    その、表情は。
    泣き出しそう、なのだろうか。
「……そんなの」
    堪えている、のだろうか。
「僕だって、一緒ですよ」
    いったい「どんな顔」をしたら、良いのか。
    いったい「どんな話」をしたら、良いのか。
「……それでも、キミは、待ってたんだ?」
    そんな「正解」など、見付かるハズも無いまま。
「……それしか、できませんから」
    言葉少なに。
    貴重な、時間が。過ぎていく。
    十八時の鐘が、僕らの町に、鳴り響く。
「噴水、見に行きたいな」
    それを合図にしたように、睦美紅子はベンチを立つ。
    僕は黙って、その後に続く。
「そういえば、私達は。いつもベンチに、座ってたね」
    ふと、可笑しげに、先輩が呟く。
「……そうですね」
    空き缶を、脇のゴミ箱に投げ入れて。歩き出す。
言われてみれば、確かに
    姫宮絵里の葬式。あと、墓参り。
    文化祭を“サボタージュ”して、見に行った「秋の海」。
    いつも、ベンチに肩を並べて、座っていた。
「先輩と僕は、いつも、そうしていましたね」
    それが。
    僕らの“タンクデサント部”の日々だった。
「……キミが、中央公園で待っているって、言うから」
    目の前には、無骨なコンクリート製の噴水。
    市営図書館の、白い大理石“風”のような、取り繕う様も何もありはしない。夜陰に浮かぶシルエットは、あたかもまるで「怪物」のように、映った。
「考えてみたんだけど、さ?」
    そんな、何の変哲も無い噴水を中心に据えた、人工池の縁のブロックに。睦美紅子は腰掛けると。

「ここなら、少しは『綺麗に終われる』かな、って」

    そう言って、微笑んだ。
    --あの「諦め切った顔」で。
「『ドキューン、バシャーン!』ってさ?」
    僕の。見るのが「大嫌いな顔」で。
「なかなか、良いアイデアだと、思わない?」
    僕は、答えない。
    僕は、座らない。
    噴水を背にした彼女を、正面から、見下ろす。
    視界の中心には、真っ赤なヘアバンド。
「……怖い顔、してるね?」
    十八時十三分--それが「予言」された時刻。
    あと、残り、僅か。
「……犬飼、クン?」
    不安げに見上げた、その少女に。
    僕は、口を開いた。

「先輩が、死ぬなんて!」

「僕は、絶対に、イヤなんですよ!!!」

    抑えていた、グチャグチャの、思いが。
「何なんですか、その、達観したみたいな態度は!?」
    堰を切って、溢れ出す。
「ちょ、犬飼クン!?」
「イヤだ!僕は、絶対、イヤだ!!!」
    たとえ、先輩に制止されようと。
「僕は“ワトソン”で、“ヘイスティングズ”じゃない!」
    自分でも、もう、止められない。
「だから先輩も“ホームズ”であって、“ポアロ”じゃない!そうでしょ!?」
「ッ、キミは、いったい何を!?」
「物分かり良く、一人で『カーテン』を下ろそうなんて、しないで下さいよ!」
    カラカラの喉で、公園中に響き渡る声で。

「貴女は、“タンクデサント部”の、“部長”なんだ!」

「カッコ良く、理不尽に、死のうとしてんじゃねーよ!」

「カッコ悪く、不条理に、生きて下さいよ!!?」

    腹の底から、叫んだ。
「全然、キミの言うコトが、理解らないよ!?」
「そんなモン、僕だって理解らないですよ!?」
    困惑する睦美紅子が、きっと望んでいたであろう。
    その「静謐なラストシーン」を。
「何が“測量オジサン”だ!何が『予言』だ!」
    僕は、粉々に、打ち砕いて。
「何が“祝福”だよ!クソッタレ!!!」
    叫ぶ。叫び続ける。
「キミは何を言ってるの!ワケわかんないよ!?」
「ワケなんか、わかるワケ無いですよ!?」
    遂に。つられて、先輩までもが。
    立ち上がって、叫び出す。
「ワケわかんない、ついで、ですから!もう洗いざらい、白状しますとね!?」
    --グチャグチャに。グチャグチャに。
「御存知の通り、僕は、先輩に惚れてますし!」
    この、吐き気がするほど、美しい“セカイ”の。
    美しい「シナリオ」なんか、無視して。
「あの、先輩と、海を見に行った日!」
    何事かと、遠巻きに見物する通行人も、無視して。
「先輩が『セックス三昧』とか、言い出すから!」
    僕は、そう。高らかに。



「帰ってから!先輩とセックスする妄想で!」

「オナニーしましたから!!!」



「キミは!バカかぁぁぁぁぁ!!?」





    バスッ。





    銃弾が。

    “祝福”の銃弾が。

    僕の口を、塞ごうと。

    顔を真っ赤にして、思わず飛び出した。

    睦美紅子の。

    頭を。



    --掠めて。



    後方の、噴水の端っこを、砕いた。



「は?……ぇ……あ……??」
    睦美紅子が、尻餅を突く。
    園内の時計を、見上げる。
「……何、で……?」
    十八時十四分を、刻んでいた。
「ぅ、ぅあああああ!先輩ぃぃぃぃぃ!!!」
    その人に、僕は。
    恥も外聞も無く、力一杯、抱き付く。
「先輩!先輩!先輩!先輩!先輩ッ!!!」
「……犬飼、クン……」
    ほとんど放心状態で、彼女は呟く。
「キミは……いったい『ナニ』をしたの……?」
    その体は、厚手のコート越しでも、温かくて。
「あり得ない。聞いたコト、無いよ?」
    僕は、先輩の胸に、顔を埋める。
    --その首元には、小振りの薔薇を象った、シルバーのペンダント。
「“祝福”の銃弾が、ハズれた、なん、て、コト……!」
    喋りながら、緊張の糸が、解れるように。
    彼女の声に、嗚咽が混じり出す。
「……“アイツ”は『リロン』だって、言いました」
    ゆっくりと。僕は、顔を上げる。
「だったら、その『外側』から何か。絶対に、あり得ないような『イレギュラー』を、差し挟んでやれば……もしかしたら、もしかしたら、って……!」
    込み上げる涙で、視界が歪む。
    僕は、グチャグチャだ。
「キミは……キミって人はぁ……!」
    先輩も、グチャグチャだ。
    そして、彼女は。
    未だ、震えの止まない両の手で。
    縋り付く僕の、頬を掴み上げて。

    --瞳を閉じる間さえも、無く。

「フフッ……コレは『御褒美』だからね?」
    そこに、いたのは。
「どうせ初キスでしょ?……感想は?」
    自称「美少女」の、傲慢な「美人」で。
    自称「この物語のヒロイン」だった。
「……めっちゃ、歯が当たりました。あと、めっちゃ、涙と鼻水の味でしたね」
「んなっ!?」
    何だか、何もかもが、可笑しくて。
    僕は、馬鹿正直な答えを、口走ってしまう。
「ソレはお互い様だ、バーカ!」
    こんな年末に、夜の公園で。噴水の傍らの地べたに座り込んで。いつまでも、抱き合っている。
「……キミは、こんな『名言』を、知ってるかい?」
    傍目には、なんて可笑しな、二人だろう。
「『異常な状況で結ばれた男女は、長続きしない』って」
「……『スピード』ですね。いわゆる“吊り橋効果”の話で。確かに続編は、ヒドかったです」
    おまけに、唐突な映画談義と来たモノだ。
    すると睦美紅子は、鼻水を啜り上げて。
「だから、さっきの、キミの『恥ずかしい告白』は」
    にやりと、口角を吊り上げた。
「『聞かなかったコト』に、しといてあげるよ」
「ぶふっ!」
    --その瞬間は、間違いなく本気で、必死だった。
    それだけに、改めて指摘されるのは。
    顔面から火が出るような、気持ちに襲われる。
「だから……だから、さ?」
    先輩は、その吊り目がちの眼差しで。
「この『異常な状況』が、落ち着く頃までに」
    真っ直ぐに、僕を見つめて。

「ちゃんと、私を『惚れさせて』みせてね?」

    はっきりと、そう告げた。
「……善処、します。ハイ」
    思わず、僕は俯いてしまう。
    それは、きっと、恥ずかしくて。
    --嬉しくて。
「フフッ、楽しみに、待っているよ」
    そんな僕の頭を、くしゃくしゃと、先輩が撫で回す。
    温かく、優しい手触り。
「……ええ。任せて、下さい」
    十二月、二十八日。
    “タンクデサント部”の、一日限りの「復活」。
    今日という日は、きっと。
    人が言う「死ぬには善い日」では、なくって。
「……うん。待ってるからね」
    こんな“セカイ”は「異常」なのかも、しれない。
    それでも、僕は。
    --僕らは。
    藻掻いて。足掻いて。
    泣いて。笑って。恋をして。

    カッコ悪く。不条理に。

    これからも、生きていくのだ--。

    僕は、顔を上げる。
    街灯に霞む、星空を背景に。
    僕の恋する、先輩が。
    笑っていた。





『青春タンクデサント』完

【青春タンクデサント】a9「first date, last date」

✳︎

    月曜日。
    学校の廊下で、睦美紅子とすれ違った。
    会釈をする。愛想良く、会釈を返される。
    もちろん、放課後の“招集”は、掛からない。

    “タンクデサント部”は、“解散”したのだから。

    十二月を、淡々と迎える。
    “測量オジサン”の「予言の日」まで。
    一ヶ月を、切った。
    木枯らしが吹き荒ぶ、帰り途を歩く。
    僕は、一人で。
    先輩が、クラスの友人と思しき女子の一団と、カラオケに入っていくのを、見掛けた。
    真っ赤なヘアバンドが、揺れていた。

    週末の土曜日。電車を乗り継いで。
    姫宮絵里の墓参りに行った。

『彼女は、きっと、“チューニング”を受けても』
『何一つ『変わらなかった人』なんだよ!!!』

    先輩の叫んだ言葉が。脳裏にリフレインする。
    あの野暮ったい眼鏡を掛けた、三つ編みの少女なら。
    今の、僕に。
    いったい、どんな言葉を掛けるのだろう。

「……あるがままになんて、どうやって、生きられる?」

    --姫宮絵里は。
    その瞬間に「自分が死ぬ」ことを。
    知らないまま。“祝福”の銃弾に、貫かれた。
    なんて「理不尽」な話だろう。

『いいか、私達、“タンクデサント部”は!!!』
『『不条理』と『理不尽』を、明確に『区別』する!』

    どうして、こんなにも。
    既に“解散”したはずの。
    “タンクデサント部”の、“部長”の言葉を。
    僕は、思い出すのだろう。
「あるがままになんて……生きられないよ。姫宮さん」
    墓石は、ただの「モノ」だ。
「……それでも、さ」
    僕に「答えて」は、くれない。

「やれるだけ、やってみようって、思うんだ」

    十二月の、一週目が終わる。

『犬飼君は、それ、何を読んでるの?』

    桜舞い散る、入学して早々の教室で。
    僕に話し掛けてくれた少女の墓を、後にする。
    いつか、肩を並べて座った、霊園の休憩所のベンチに、腰を落として。
    取り出したスマホの電話帳を、タップする。

    “睦美先輩”と登録された、その番号を。

    呼び出し音が、続く。
    --相手が、出ない。
    留守電に切り替わるまでは、待とうと腹を括った。
    ちょうど、その時。

『……随分と、粘ったね?』

    スピーカー越しに、約一週間ぶりの。
    ハスキーで明朗な、睦美紅子の声が、聞こえた。
「……すいません」
    自分の吐く息が、白く揺らめく。
『まぁ、イイさ。それで、用件は?』
    淡々と事務的な、先輩の言葉を。
    乗り越えて。
「……先輩」
『ん?』
「二十四日のクリスマス・イブ、空けといて下さい」
    敢えて「空いてますか」とは、聞かない。
    僕は、一息に。

「僕と、デートして下さい。先輩」

    沈黙。スピーカーからは、微かなノイズ。
    そして溜息が、続いた。
『“タンクデサント部”は、もう“解散”したんだよ?』
「知ってます」
『ついでに言うと、別にキミと私は、付き合っていたワケでもないからね?』
「知ってます」
    --引き下がるつもりは、まったく無い。

「だからって、デートに誘っちゃいけない『理由』には、なりませんよね?」

    先輩の「理論武装」は、認めない。
「先輩には、ただ、イエスかノーで、答えて欲しいです。もちろん、僕の希望は、イエスの方向で」
『……今日は随分と、強引だね?』
「ええ。強引じゃなきゃ、先輩みたいな『美人』をデートのお誘いなんて、できませんから」
    溜息を、もう一つ吐いて。
『……イイよ。分かったよ』
    あの、睦美紅子が。
『イブの日に、キミとデートに、付き合ってあげる』
    僕に、根負けした。
「ありがとうございます」
『プランは、キミに丸投げだからね?まぁ、せいぜい頑張ってよ、犬飼恭兵クン』
「もちろん、そのつもりです」
    微かに、僕の声が震えた。気がした。
「あと、犬飼でイイです。--それじゃあ」
    誤魔化すように、お決まりのツッコミで。
    通話を、終えた。
「……ふぅ……」
    16歳。初めての、クリスマス・デートの約束を。
    冬枯れの霊園の、一角で。
    こうして僕は、取り付けた。

    --二週間が、過ぎていく。
    “タンクデサント部”は、既に無い。
    放課後の“活動”は、既に無い。
    ただ「約束」だけが、ある。
    待合せのメールを送る。
    街のBGMがクリスマス・ソングに染まる。
    二十四日を、迎える。

「ふーん……ある意味、予想を裏切られたね」
    先輩と僕は、その日。
「いや、まさかキミが、こんな『ベタ』な感じで、攻めてくるっていうのは、さ?」
    県内の遊園地に、来ていた。
「イイじゃないですか。『ベタ』な感じで」
    幸いにも、絶好の晴れ模様。
「その割には、ディズニーランドってワケでもなく?」
「混むでしょう。こんなモンじゃ済まないですよ?」
    親子連れ、友人連れ、そしてカップル。
    賑わう園内を、一瞥する。
「……それに」
「それに?」
「ディズニーランドには、アレ、無いでしょう」
    見上げる先には、ランドマークのように聳え立つ。
    巨大な観覧車が、僕らを見下ろしていた。
「……ブフッ」
    堪え切れず、先輩が吹いた。
「盛大なネタばらしだろうが、うわ、ソレは、アレだな!割と、気恥ずかしいぞ!?」
    何故か「デートの相手」に、冷やかされて。
「イイじゃないですか!?それこそ『ベタ』で!」
    僕は、たぶん顔を真っ赤に、反論する。
    そこへちょうど、にこにことした係員が、次回の乗客の案内に現れる。
「ディズニーだったら、きっと、軽く、この倍以上は待たされますからね!?」
    特に日本一高いワケでも、日本一速いワケでもないジェットコースターに、横並びに乗り込む。
「おおぅ、何年ぶりだろう?」
    カタカタと引っ張り上げられる車両で、長い黒髪をした彼女は、そう言って笑うと。
「フフッ、なかなか、ドキドキするな?」
    隣の僕の手を、包むように、握り込んでいた。
    そして、急速で、降下--。

    コーヒーカップ。カート。お化け屋敷。3Dシアター。冬のソフトクリーム。「ベタ」で良いと、開き直って。
    焦茶色のダッフルコートを羽織った睦美紅子を、僕は、目一杯に連れ回す。他愛も無い話で、からかい合って。
    ジングルベルと、飾り立てられたツリー。
    十二月の、あっという間の夕暮れ。宵闇。
「フフッ、ナルホド。コレは、なかなか」
    彩りどりにライトアップされて煌めく、大観覧車。
「悪くない。思った以上に、グッと来るな」
    ゆるゆると上昇していくゴンドラから、遠い街の灯りを見下ろして。先輩が笑みを浮かべる。
「まぁ、及第点なんじゃないか?」
    吊り目がちの眼差しを細めて、僕を覗き込んでくる。
「キミが言うトコロの、『ベタな初デート』としては」
「……ありがとうございます」
    ゴンドラは、間も無く頂点に到達する。
    そして僕は、ショルダーバッグから。
「コレ。どうぞ、クリスマス・プレゼントです」
    細長い小箱を、睦美紅子に差し出す。
「……ナルホド。確かに、大事なイベントだな。『ベタ』な展開で、やる上では」
    少し驚いた素振りを、彼女は誤魔化すように。
「開けてみて、イイのかな?」
    僕は首肯して、先輩が丁寧にラッピングを剥がすのを、静かに見守る。
「フム……流石に、万年筆では、なかったか」
    シルバーのペンダント。
    ヘッドは、小さな薔薇を象っている。
「初めて逢った時に、お借りしたハンカチの柄。薔薇が、好きなのかなって、思いまして」
「ああ……ナルホドね?」
    先輩は微苦笑。そして、コートのボタンを一つ外して、チェーンを首の後ろに回す。
「……フフッ、似合うかな?」
    ブラウスの襟を弄りながら、はにかんでみせる。
「ええ、とても」
「フフッ、ありがとうね」
    ゴンドラが、頂点を通過して。下り始める。
「……コレで、キミの」
    彼方の夜景は、僕らが住む町より、随分と立派だ。
「とっても『ベタ』なデートプランは、オシマイかな?」
    睦美紅子が、僕に訊ねる。
「ええ。まぁ、そうですね」
    すると彼女は、にやりと口角を上げて。
「ふーん、ソレはまた『健全』だねぇ?」
    フフン、っと鼻を鳴らした。
「もうちょっと、男子高校生ってのは『下心』があるモノかと、思ってたけど」
    --からかわれている?試されている?
    しかし、どの道。
「別にイイですよ?……キスでも、セックスでも」
    僕は、こんな「ツマラナイ」ことしか。
「先輩と僕は、付き合ってもいませんが」
    どうせ、言えない。そういう人間なのだ。

「--先輩が、ソレを、望むなら」

    空中の密室で、嫌に、自分の声が響く。
    上ずっているような気がして、情けなくなる。
「ナルホドね……そう言われてみれば」
    今日の先輩は「ナルホド」とばかり、言っている。
「例えば、私が男だったなら。『生命の危機』に際して、生殖本能が働く、シチュエーションかもしれない」
    ゴンドラが、円周の四分の三を過ぎる。
「しかし、あいにく、私は女だ。『そーゆー気分』でも、無かったみたいだよ」
    まるで「他人事」のように、目の前の「美人」は、首を横に振った。
「フフッ、期待させて、すまなかったな?犬飼少年」
「……だから、犬飼でイイです」
「ワンコ少年?」
「ツッコミませんし、“お手”もしません!」
    差し出された右手は、握り返さない。
    まもなく、地上が。
    先輩と僕を、待ち受けていた。

    --クリスマス・デートが、終わる。
    日付が変わる前に、睦美紅子を、家まで送り届ける。
「今日は、楽しかったよ。コレは、ホントに」
    見飽きた、判で押したような住宅街を、抜けて。
「ホントに『良い思い出』に、なったから」
    白い吐息で。真っ赤なヘアバンドの少女が。
    僕の方を、振り返る。
「ありがとう。--じゃあね」
    そして、歩み去ろうとする、彼女を。

「--待って下さい!」

    僕の、ありったけの「覚悟」を、振り絞って。
「待って、下さい」
「……怖い顔、してるね?」
    睦美紅子を、引き留める。
「“デート”は終わりました。その上で、聞いて下さい」
    心臓が、張り裂けそうになっても。
    いっそ、張り裂けてしまったって。



「二十八日の、夕方五時から」

「僕は、中央公園で、待ってます」



    閑静な夜半を、僕の声が、静かに裂いた。
    --長い、長い、沈黙を置いて。
「キミは……『正気』かい?」
    たとえ、先輩に。「どんな顔」で、睨まれても。
「幾ら何でも、そんな『義理』は、キミには『無い』」
「いいえ、『あります』」
    僕はもう、絶対に。

「“タンクデサント部”の、唯一の“部員”として」

    逃げない。--否、「逃げられない」。
「先輩は、御存知ですか?」
    僕は、精一杯の笑みを、作ってみせる。
「“引退したプロレスラー”は、必ず『復帰』するし」
    睦美紅子の、お株を奪うように。
「“解散したバンド”は、必ず『再結成』するんです」
    --やれるだけ、やってみる、と。
    今は亡き、姫宮絵里にも。僕は、誓ったのだから。

「だから、僕は、待ってます。--“部長”のコトを」

    再びの沈黙を、破って。
「……“タンクデサント部”は、私が“解散”した」
    その人は、俯いたまま。
「だから、私がキミに『約束するコトバ』は、無い」
「構いません」
「私は、結局、『現れない』かもしれない」
「構いません」
    僕の中に、もう「迷い」は無い。
「ソレは“デート”じゃ、ありませんので」
    恐る恐る、といった風で、顔を上げた先輩に。
「僕は、『勝手に待ってます』から」
    今度こそ、自然な笑顔を、見せられたと思う。
「それじゃあ、また」
    僕は、来た道を駅に向かって、踵を返した。
    ぎりぎりで、終電には間に合うだろう。

    --まもなく。日付が、変われば。
    “測量オジサン”の「予言」の、三日前。

『貴様の『現状認識』は正しい。そうとも、私達は、まったく『戦時下』にあると、考えるべきなのだから!』

    初めて出逢った、あの、春の日の。
    睦美紅子の、力強い「宣言」が、胸に去来する。
    たとえ。その“祝福”の銃弾が。
    絶対に「不可避」であったとしても。
    --やれるだけ、やってみる。
    そんな「矜持のようなモノ」を。
    この僕に、教えてくれたのは。
    我らが“タンクデサント部”の、愛すべき“部長”。
    睦美紅子、その人なのだから。

    終電に、揺られて。
    日付が、変わった。

絶対☆カワイイ♡シフォン主義( ̄^ ̄)ゞ

✳︎

きゃるん☆とした顔したアタシは、
So!カワイイ!(カ〜ワ〜イ〜イ〜!)
だからアタシ(*´︶`*)には、
カワイイ♡シフォンケーキのお城が、
So!マスト?じゃんじゃん??
ラズベリーのマニキュアと〜、
クランベリーのペディキュア(≧∀≦)
ゼリービーンズのマスカラ、
チョー流行の最先端、みたいな♪
ドーナッツのリングには、ん〜、
真っ赤なロリポップの宝石☆ヤバい☆
ヤバい。
ミルフィーユのドレスに、
金箔を散らして、アタシはバルコニーから、
ハロウィンのカボチャの王国を、見下ろす。
スペードもクローバーも、ひれ伏す。
アタシは、キングとクイーンの、一人娘。
ガラスの靴も、栗鼠皮の靴も、持ってる。
不敬な白兎の、毛皮のファーだって。
穢らわしいマクレガーの農夫?なんか、
ミートパイに、してしまえばイイのよ。
きゃるん☆とした顔したアタシが、
So!言ってるんDE〜ATH♡(*╹◡╹*)



理想の王子様だなんて、要らないの。

理想のお姫様が、アタシなんだから。



誰にも、言わせない。

アタシが、カワイクナイなんて。



(それで)

(誰がゼペット、殺したの?)



(それは、アタシ)

(アタシの爪で、アタシの歯で)

(アタシがおじいちゃん、殺したの)



そしてアタシは、目を覚ます。



寝転んだまま、泳いでた。クジラが、
打ち上げられて、腐った砂浜で。
血と骨と臓物が、アタシの頬を伝い落ちる。
でもね、イヤな臭いなんてしないの。
アタシの鼻、こんなに高かったかなぁ?
アハハ、チンコみたい。
硬くて、太くて、長いから。
ねぇ。
アタシさ、バカで、木偶の坊だけど、鼻血、
止まんないね。また注射したら、治るかなぁ?



アタシは、それでも、カワイイし。

アタシは、気高く、カワイイんだ。



ねぇ。

天国には、海が無いんだって。



うさぎたばこ。

一本、ちょうだい。

【青春タンクデサント】a8「ヒロイン、失格」

✳︎

    郊外に建つ、少し古びた一軒家。
    呼び出された駅から、ほとんど無言のまま連れられて。無人の家に、通された。
「ここは、夏に亡くなった、祖母の家でな」
    カーテンの外された窓から、雑草の茂った庭が見える。
「片付けやら何やらで……うん、まだ、電気は通っているな。良かった」
    その言葉通り、がらんとしているが、テーブルと椅子は残されていて。
    睦美紅子が、先に僕を座らせる。
「……この間は、すまなかったな」
    駅前のコンビニで買ったミネラルウォーターを、電気ケトルに注ぎながら。彼女はそう、切り出した。
「タクシーを捕まえて、家に帰してくれたり、色々と」
    水色のセーターを纏った先輩が、食器棚からカップと、ティーバッグを用意する。
「そんなの……御詫びなんて……」
    --先輩らしく、ない。
    僕は、言葉を呑み込んでばかり、いる。
「砂糖とミルクは……キミは、要らなかったかな」
    プラスチックの盆から、紅茶を供して。
    真っ赤なヘアバンドの少女が、机の向かいに座った。
「私はミルクティー派なんだが、まぁ、仕方無い」
    生活感の喪われた居間で、彼女がそっとティーカップに唇を付ける様は。
「それから今日も、貴重な日曜日を、私のために使ってくれて、礼を言うよ」
    良く言えば「画になっている」し。
「--ありがとう」
    悪く言えば「現実感が無かった」。
「まぁ実際のところ、キミを呼び出したのは」
    ふと、気が付けば。
「こうして『御礼』を、言いたかったのさ」
    予報外れの、大粒の雨が。

「これまで“タンクデサント部”に、付き合ってくれて」

    空き家の窓ガラスを、叩き始めていた。
「そうそう、借りていたCDも返すよ」
    僕の言葉を、待つこと無く。
    睦美紅子は、レコードショップのビニールに包まれた、何枚ものアルバムを机上に置いた。
    Home GrownUseless ID、The Suicide Machines、Fenix TX、AllisterNew Found GloryMXPXLagwagon
「フフッ、聴いていて、なかなか愉快だったよ」
    僕が無理矢理に押し付けた、ポップパンク系の、お気に入りのバンドの“名盤”。
    --きっと、先輩が好んで聴くジャンルじゃない。
「……先輩は、今日」
    それでも、僕は「聴いて欲しかった」。
「僕のコトを、一度も」
     僕が好きなバンドの、音楽を。
 
「一度も『貴様』って、呼ばないんですね?」

    目の前の、吊り目がちの「美人」の、表情が。
「……キミの、そーゆートコロ」
    引き攣るように、歪んだ。
「私は、正直『キライ』だからね?」
    テーブルの上で、彼女は拳を丸める。
「今日は、私の“タンクデサント部”の“解散式”なの」
    雨音が、激しさを増す。
「キミの、そーゆー『察しの良さ』みたいなので」
    下手クソな演劇みたいに。
    先輩と僕は、居間に座って、向かい合う。
「ヒトを、勝手に見透かさないで、くれるかな?」
    カップの紅茶が、無為に、冷めていく。
「私は、キミを、『利用したかっただけ』なの」
    --僕は「答えない」。
「キミのサイトの文章を読んだら、すぐに判ったもの」
    この、一つ上の先輩の「苛立ち」を。
「ああ、この子は、きっと『私と同じ』で」
    ずっと「見て見ぬフリ」をしてきた。
「“チューニング”を受けていない。受ける勇気の無い」
    その「罰」を。僕は、今。
「私と同じ『憶病者』なんだ、って!」
    ここで。受けているのだ--。
「だから、私はキミを『利用』したの!私が『ヒロイン』に、なるために!」
    いつかの「謎掛け」の「答え」を。
「キミなら、私にとって『都合の良いワトソン役』になってくれると、思ったから!」
    こんな形で、僕は聞かされる。
「だから、私は、キミの『推理』なんか『聞きたくなかった』しさぁ!」
    遂に先輩が、拳で、テーブルを叩いて。

「キミの憧れの、姫宮絵里の話なんか、ホントにウンザリだったんだよ!」

    --予想だにしていなかった“名前”が。
「キミが、姫宮絵里に『憧れた理由』なんて、ぶっちゃけ私には、簡単に判ったからね?」
    僕の動揺を、見透かして。
「彼女は、きっと、“チューニング”を受けても」
    長いストレートの黒髪を掻き上げた少女が、勝ち誇ったかのように。

「何一つ『変わらなかった人』なんだよ!!!」

    僕を、嘲笑っていた。
「ホントにね!ホントに、もう!」
    天井を仰ぎ見て。
「姫宮絵里の話を聞かされる、私が!」
    先輩の肩が、微かに震える。
「どれだけ『惨めな思い』をしていたか。キミは、全然、気付いてなかったよね??……この、鈍感男」
    --僕は「答えられない」。
    暫しの沈黙を、挟んで
「……あーあ、やっぱり、こうなっちゃったか」
    フッと、睦美紅子の表情が、緩んだ。
「まぁ『予感』はしてたからさ。だから、わざわざ、誰もいない、お婆ちゃんの家に、キミを呼んだんだしね」
    何もかも「諦めてしまった」。
    先輩の「そんな顔」の、その「責任」は。
「フフッ、キミには、理解るかな?」
    きっと、僕に、ある。
「『ヒロイン』は、その『物語のオシマイ』まで」
    とっくに冷め切った紅茶を、彼女は飲み干して。
「絶対に『死なない』んだよ」
    断言した。

「だから、私は『ヒロイン失格』ってコト」

    住人を喪った、がらんどうの家の、居間で。
「……まぁ、ホント。今日は、ありがとね」
    席を立った先輩は、何事も無かったかのように。
「私は、他にも、色々と片付けとかあるからさ。キミは、先に帰って」
    プラスチックの盆に、ティーカップを下げていく。
「はい。忘れず、持って帰ってね」
    貸していたCDの詰まった袋を、差し出される。
『別に、片付けぐらい待ちますし、手伝いますよ』
    そんな、簡単な一言を。
    僕が、口にすることは無く。
「……先輩、さようなら」
「ん、バイバイ」
    見送られることも無く、玄関を出た先では。
    雨は、少し小降りになっていた。
    これは、予報外れ。手元に、傘は無い。
    構わず、僕は。駅に向かって、歩き出す。
「……どうして……どうして……ッ」
    既にカーテンの無い、その空き家を。
    僕は。
    振り返ることが、できなかった。

【青春タンクデサント】a7「噂の“測量オジサン”、或いはカタストロフ」

✳︎

    見た目は、ホームレス。
    台車を押していて、その上には、良く判らない機械が、ぎっしりと積まれている。
    ブツブツと独り言を呟きながら、彼は「何か」を。
    ひたすら「測量」し続けている--。

「……新手の都市伝説か、何かですか?」
    いよいよ冷え込み始めた、十一月の夕刻。
「まぁ、そんなトコロだろうな」
    睦美紅子が語った話は、その「荒唐無稽さのベクトル」が、いつもとは少々、趣が異なっていた。
「クラスの女子の、弟が目撃したそうだがね」
    自分は寒がりだと零す先輩は、早くも焦茶色のダッフルコートで、防備を固めている。
「その、“測量オジサン”とやらを」
「身も蓋も無い、ネーミングですね」
    こうして市営図書館に立ち寄った帰り途は、街路灯も、人影も、疎らだ。
「まぁ、もしその、“測量オジサン”が、実在するのなら」
    --姫宮絵里を思い出すことも、少なくなった。
「典型的な統合失調症でしょうから、ソレは警察とか福祉の範疇の話であって」
    あの「図書館の姫君」のようだった、野暮ったい眼鏡を掛けた、級友の少女のことを。
「僕らには、まぁ、無関係の話ですよ」
    すると先輩は、ふと、足を止めた。
「フフッ、どうだろうな?」
    吊り目がちの眼差しで、僕を振り返る。
「例えば『噂をすれば影が差す』という、コトバもある」
    頭上の蛍光灯が、ジジジと、鳴く。
「つまりは『言霊信仰』という観点から捉えれば、貴様と私が、このように『話題にする』という行為自体が、一種の『召喚の儀式』として機能するという可能性も--」



「みつけた」



    先輩の、無邪気な衒学の披露を、遮って。
    行き先の、四つ辻の陰から。
「みつけたみつけたみつけたみつけた!」
    “ソイツ”は、噂通りの、浮浪者の姿で。
    僕ら“タンクデサント部”の前に、立ち塞がっていた。
「やっぱりおれのリロンにくるいはないからおれのリロンにしたがっておれはみつけたみつけた!」
    先輩も、僕も、固まって動けない。
(こんな不条理な話って、あるか!?)
    間抜けにも半開きの僕の唇は、しかし、動かない。
「おれのリロンおれのリロンおれのリロンどおり!」
    男の腰に提げられた携帯ラジオが、耳障りなノイズを垂れ流す。街路灯が、不意に、明滅を始める。

「みつけたぞ!むつみべにこォォォォォ!!!」

    鼓動が、跳ね上がった。
「んな!?」
    確かに、この“測量オジサン”は、今。
「先輩!ヤバいです!逃げましょう!!」
    --ハッキリと、先輩の“名前”を。
「“しゅくふく”だ“しゅくふく”だ“しゅくふく”!」
    次の瞬間、ボサボサの髪も髭も伸びるに任せた風体からは、想像も付かぬ俊敏さで。
「ぅ、うわぁ!?」
「“しゅくふく”はじゅうにがつにじゅうはちにち!」
    得体の知れぬ観測機器を満載した台車を、放り出して。
「ヒッ!?」
「じゅうにがつにじゅうはちにち!じゅうにがつにじゅうはちにち!」
    小さく悲鳴を上げて、身を強張らせた先輩に向かって。掴みかからん勢いで、駆け寄ろうとする。
「なっ、なんなんだアンタ!?やめ、ろッ!!」
    思わず割って入った僕と、揉みくちゃになる。生ゴミと酒の匂いが、強烈に鼻を突く。
「いいかよくきけむつみべにこ!じゅうにがつにじゅうはちにちだ!」
    “測量オジサン”の、陥ち窪んで、爛々とした眼中に、僕は入っていない。腰を抜かして、路上に尻餅を着いた先輩を、見下ろして。
    そして、獣の、咆哮が。

「じゅうにがつにじゅうはちにち!」

「むつみべにこは!」



「“しゅくふく”により、しぬ!!!」



    街路灯の明滅が、止んだ。
「おれのリロンおれのリロンがセカイではじめてよそくにせいこうする!よろこべよろこべよろこべよろこ--」
    僕の、理性と呼ばれるモノが。
「テメェ!デタラメ抜かしてんじゃねぇ!!!」
    プツリと、切れた。
「イイ加減にしろよ!キチガイが!!!」
    力任せに突き飛ばした“測量オジサン”が、あっさりと、アスファルトに転がされる。
    その手から、ぐしゃぐしゃになった大学ノートの切れ端が散らばる。真っ赤なボールペンで殴り書きされた、意味不明な数式の羅列に、囲まれて。
    デカデカと。

『睦美紅子死一二二八日一八一三時祝福死確定!!!』

    呪詛と悪意の塊のような紙切れを、震える手で、綺麗な長い黒髪の少女が、拾い上げる。
「先輩!捨てて下さい!デタラメです!!!」
「でたらめじゃない!リロンだ!!!」
    “測量オジサン”は、恍惚とした笑みで。
「黙れよ!黙れっつってんだよ!!!」
「あとさんじゅうびょうだ!!!」
    先輩から紙片を引ったくり、睨み付けた先で、男は。
「しょうめいする!あとあとあとにじゅうびょう!」
    まるで印籠を翳すかのように、デジタルの卓上時計を、高々と掲げていた。
「なんなんだよテメェは!?」
「じゅう!きゅう!はち!--」
「テメェはいったいなんなんだ!!?」
「よん!さん!にぃ!」
    僕の、叫びを、無視して。

「いち!ぜ--」



    バスッ。



    “測量オジサン”の、頭が。
    “測量オジサン”の頭が、ただ、爆ぜた。
    --即死。
    スナイパーの銃弾に、脳幹を破壊されて。
「……は……ぁ……?」
    ボロ雑巾のように投げ出された、その手から。
「……ふ……ッ……!」
    もう一枚のノートが、零れ落ちる。

『真境名神死一一一七日一九五九時祝福死確定!!!』

    ドクドクと路面に広がる血の海に、狂気の字面が侵されていく。そして、嘲笑うかのように。
    “測量オジサン”のデジタル時計が、二十時に設定されたアラームを、無機質に鳴らした。
「ふざけんな!!!」
    思い切り。僕は、蹴り飛ばす。
「ふざけてんじゃねぇよ!!!」
    百円ショップの商品と思しき、チャチな時計は、路肩に叩き付けられて、その電子音を止めた。
「ふざけんなよ!ふざけんな!ふざけんな!!!」
    ただ、僕の絶叫だけが。闇に、木霊する。
    その、背後から。
    びちゃびちゃと、音がした。
「ッ、先輩!!!」
    アスファルトに四つん這いになって。
    睦美紅子が、嘔吐していた。
「先輩!先輩!先輩!?」
    慌てて駆け寄って。
    背中をさすることしか、できない。
「ぅあ、ぁ、ぁ、あ……ゲボッ……!」
    乱れた呼吸で、唇の端から、胃液を伝い落として。
    絞り出すように。
    先輩は、言った。

「……私……死ぬんだ……?」

    目の前が、真っ白になる。
「違う!!!」
    訳も判らず、ただ、闇雲に。
「違う違う違う違う違う!!!」
    叫ぶ。
「嘘だ!嘘、嘘、嘘に決まってる!!!」
    焦点の合わない、虚ろな眼差しの、先輩に。
「水!そうだ!僕、水、持ってますから!」
    路上に放り出された鞄から取り出したペットボトルを、飲ませようとした。

「--違わないよ!!!」

    僕の手を。彼女が、振り払った。
「違わないよ!だって、キミも、見たでしょ!?」
    転がり落ちたボトルからは、チョロチョロと、飲料水が零れ落ちていく。
「アイツは『証明』した!!!」
    先輩の、吐瀉物の臭い。
「自分が死ぬ瞬間を、予言してみせた!!!」
    “測量オジサン”だったモノの、血の臭い。
「私は!私は!ぁ、ッ、私は!!!」
    街路灯の、薄暗がりの下で。

「私は、死ぬんだ」

    先輩と、僕は。
「……違う……嘘だ……ッ」
    “タンクデサント部”の、二人は。
「嘘だァァァァァァァァァァ!!!」
    初冬の晩。市営図書館の裏手の、人気の無い路地に。
    ただ、無力に。へたり込んでいた。

    --それから、どうやって、家に帰ったか。
    先輩をタクシーに乗せてからの、記憶は曖昧だ。

    翌日の朝刊の、地方面の、片隅には。「元・大学教授の真境名神(まきな・じん)氏」が、“祝福”の対象となった遺体で発見された旨が、載っていたらしい。
    その日、僕は。体調不良で、学校を休んだ。
    その次の日に、登校したところ。
    睦美紅子は「まだ休んでいる」ということだった。
    メールも、電話も、繋がらない。
    金曜日を迎えて。
    睦美紅子は「まだ休んでいた」。

    そして、土曜日の夕方。

「明日、会って、話がしたい」と。

    メールの返信が、あった。